「相続したくない」「兄弟に全部あげたい」
そう思ったときに出てくるのが、「相続放棄」と「遺産を受け取らない」という2つの選択。
一見同じように思えますが、実はこの2つ、法律上はまったく別のものです。
この記事では、行政書士がその違いと選び方をわかりやすく解説します。
🔹相続放棄とは(家庭裁判所での手続き)
相続放棄とは、家庭裁判所に申し立てをして、
「最初から相続人でなかったことにする」制度です。
つまり、プラスの財産もマイナスの財産(借金など)も、
一切引き継がなくなるという強力な方法です。
- 手続き先:家庭裁判所
- 期限:相続を知ってから3か月以内
- 効果:相続人ではなくなる(財産も借金もゼロ)
📘たとえば…
お父さんに多額の借金があることがわかっている場合、
相続放棄をすればその借金を支払う必要は一切ありません。
🔹遺産を受け取らないとは(遺産分割協議での対応)
こちらは、家庭裁判所の手続きではなく、
相続人同士の話し合い(遺産分割協議)で「自分はもらわない」と決めるやり方です。
この場合でも、相続人としての立場は残ります。
遺産分割協議書に「〇〇は遺産を取得しない」と記載して署名押印するだけでOKです。
- 手続き先:相続人間の話し合い
- 期限:特になし
- 効果:相続人のまま、実際には財産を受け取らない
📘たとえば…
「私は兄に全部譲りたい」「実家をもらうのは弟だけでいい」
というような場合はこちらを選びます。
🔹大きな違いまとめ
| 比較項目 | 相続放棄 | 遺産を受け取らない(分割協議) | 
|---|---|---|
| 相続人であるか | ❌ 相続人でなくなる | ✅ 相続人のまま | 
| 借金の負担 | なし | あり(他の相続人と同様) | 
| 手続き先 | 家庭裁判所 | 相続人同士の話し合い | 
| 署名・押印 | 不要(相続人でないため) | 必要 | 
| 典型的な場面 | 借金が多い | 財産を他の家族に譲りたい | 
🔹どっちがいいの?
結論:次のように考えると分かりやすいです👇
- 借金や滞納税金などマイナス財産がある → 相続放棄
 家庭裁判所で正式に放棄。借金リスクをゼロにできます。
- プラスの財産はあるけど自分はいらない → 遺産を受け取らない
 遺産分割協議で「何ももらわない」と決めるだけでOK。
🔹まとめ
「相続放棄」は法的に“相続人でなかったことにする”制度、
「遺産を受け取らない」は“相続人のまま財産を辞退する”行為です。
つまり、
- 借金がある → 相続放棄
- 財産だけある → 遺産分割協議
と覚えておくと、迷わず選べます。
行政書士として相続相談を受けていると、
この2つを混同してトラブルになっているケースをよく見かけます。
「放棄」と「辞退」はまったく違う——。
手続き前にしっかり確認しておくことが大切です。